ちば環境情報センター
2000.5.8 発行    ニュースレター第34号

代表:小西由希子


目次
  1. ISO14001に関する幻想と誤解と・・
  2. 「CO住創(こじゅうそう)」を立ち上げて

ISO14001に関する幻想と誤解と・・

高宮 文夫(東金市役所経済環境部環境保全課)

ここ数年、全国的に都道府県や市町村でのISO14001の認証取得件数が急速に数を伸ばすとともに、今後取得しようとするところもそれ以上の数で増えており、地方行政のトレンドと化した感があります。先行的に取得した地方自治体の成果についてマスコミなどが大きく取り上げる記事を読むにつけ、ISO14001があたかも閉塞した地方行政の特効薬のように思え、首長(知事や市町村長のこと)、議員、有識者などからもISO14001に対する期待が大きくなってきています。
しかし、本当にISO14001の認証取得は地方行政にとって必要なものなのかという点について述べてみたいと思います。

1.民間・行政における目的と動機の違い

民間企業におけるISO14001の認証取得は主に海外取引の多い企業から始まり、これらの企業と取引する国内中小企業の間に取得に広がってきていますが、いずれにしても企業の取得というものはその経営戦略として組み込まれているものであり、

@国内外での商取引上の優位性の確保

A会社のイメージアップ

B省エネ等による経済効率の向上

C企業活動を原因とする公害等のリスク負担の軽減

が主なネライと言われています。これに対して、地方公共団体の場合は、

@行政自身が率先垂範して国際規格に基づく環境活動をすることで、環境問題に関して市民や事業者の環境意識の向上を図る。

A科学的なマネジメント手法を行政経営に導入することで、優れた行政サービスの実現を図る。

B省エネ等の環境取組みにより経費節減などの行革効果が期待できる。

とされています。

民間企業と行政では目的とする仕事も違うので、おのずとISO14001に対する捕らえ方も異なるものとなります。民間企業の場合はダイレクトに経済原則の上に立っているのに対して、行政の場合は施策的な視点からISO14001を捕らえるようになっています。

2. ISO14001についての幻想と誤解

確かに、これらの行政的メリットを並べられると、地方公共団体の場合もISO14001について取り組むべき価値があるように思えますが、ここにISO14001に対する幻想と誤解が無いのか検証してみたいと思います。

地方公共団体がISO14001の取得にあたり第1の理由が「行政が率先垂範して国際規格に基づく環境活動をすることで、市民や事業者の環境意識の向上を図る」こととされています。一見すると行政がISO14001によって先導的に環境活動することで市民や事業者の環境意識が覚醒され、まち全体の環境取組みが大きく前進するような気がします。しかしよく考えてみると地方公共団体のISO14001取得でそう簡単に市民等の環境意識が向上するものでしょうか。行政は今までにもいろいろな形で環境に関する施策を展開しており、広報などによる一般的な啓発事業のほか、環境教育、ゴミ収集、コンポスト普及、下水道整備、緑化推進など環境関連の施策をすでに進めてきています。また、内部的にも行革等を通じた中での省エネ等のエコオフィス活動も行われて来ています。つまり、大方の地方公共団体では行政の仕事として環境に関する活動はその内外ですでに率先的に進められてきているのです。にもかかわらず、行政側が期待するほどに社会全般における環境意識が高いとは言い切れないのが現実であり、一般市民や中小事業者にとって認知度の低いISO14001を行政が取得したとしても、取得の事実をもって人々の環境意識向上にどのくらいの影響力を持てるのかということは実のところはなはだ疑問なのです。

次に2点目の「マネジメント手法を行政経営に導入し行政サービス向上を図る」ことができるのかということについても疑問があります。ISO14001によるマネジメントの特徴はいくつかありますが、大きなものとして組織管理や意思決定に関してすべからくトップマネジメントの組織経営方式であること、また、P(計画)(実行)(監査)(見直し)を繰り返して常に取組みを改善向上していくという考えがあります。これらは、いずれもいままでの行政組織運営に無かったもの(あったとしても試みで終わっていたもの)であり、行政組織のあり方そのものを改革し、行政サービス向上の手法として期待されています。でも、これらの導入が行政サービスの向上にどう繋がるのでしょうか。

「行政サービス向上を図る」ということについては、既存の組織について何が問題であり、これをどう改善すべきか、改善によりどう行政サービス向上に繋がるのかと言う点に議論が必要です。例えば行政側の意思決定に時間が掛かりなかなか結論が出ない、あるいは対応が遅いと言う問題が、組織上のシステムの問題なのか、何らかの制度的問題なのか、技術的問題なのかという原因別の整理が必要であり、それぞれの解決に何をどうしたら行政サービスが向上できるという見通しとシナリオが必要です。これらに関する整理と検討なくして、単純に組織経営にこのISO14001的なマネジメント手法を導入しても、それが即ち行政サービス向上に繋がるとは限らないのです。

最後に、3点目のISO14001により「経費節減などの行革効果」が期待できるとされることについても、よく考えてみることが必要です。確かに、省エネや節電などについて組織的取組みを行うことで、電気やガス、事務用紙その他の節減は図れますが、行政が消費するこれらのエネルギー量は民間工場からすれば相対的には微々たる量に過ぎません。おそらく、どんなに節約しても一般的な規模の市役所では年間1,000万円前後が限度ではないかと思います。ISO14001では認証登録の審査経費や毎年のサーベイランス費が必要となり、市役所規模にもよりますが、これだけでも年間平均で100200万円程度は要します。さらに、マネジメントシステムの維持のため全体を統括する担当者と各課・各現場の担当者が必要となるものであり、これらの者がISO14001に関する事務をしている時間の人件費もかかります。また、ISO14001では法基準以上の高いレベルの環境対策を求めることから、このための新たな設備投資が必要となる場合もあります。これらによって先の節約効果など霞んでしまうのです。人件費や設備投資などを脇において経費が浮いた、行革できたと浮かれても、差し引きしたら実は赤字と言うことも大いにあるのです。

3.行政セクターにおけるメリットの本質

ここまでは、ISO14001取得に関する否定的な意見を述べてきましたが、ここからは私なりに感じた、それでもISO14001取得する意義はどこにあるのかと言うことについて述べてみたいと思います。

まず、「行政が率先垂範して国際規格に基づく環境活動をすることで、市民や事業者の環境意識の向     上を図る」ということの本当の意味について考えてみると、実際には「行政機関におけるISO14001取得」→「市民・事業者の意識向上」というような短絡的な発想ではなく、先行的にISO14001を取得した地方公共団体の場合、首長自身の大いなる環境戦略というか施策ビジョンというものの存在を意識せざるを得ないのです。

つまり、組織としてISO14001による環境マネジメントの取組みを行うと必然的に個々の職員が担当事務に関連して環境への配慮が求められることとなります。これは言い換えると環境問題に関してひとりひとりの職員が仕事上無関係ではいられなくなるシチュエーションが生じると言うことなのです。現場で行政を担っているのは個々の職員であり、ISO14001による環境マネジメントの取組みによって個々の職員の環境意識が高まり、仕事における環境配慮というものが結果的に事務のスタンダード化してくるのです。あるいはスタンダードせざるを得なくなるのです。これにより、環境部局だけでなく、行政全体のトータルな面で環境を配慮した事務事業が実施されることとなり、このことが行政の行うまちづくりの局面に多面的にフィードバックされ、このような行政組織全体での環境配慮、環境取組みというものがひいては市民等の目に行政が率先垂範していると映るようになる。という、三段論法的な仕掛け、目論見としてISO14001を捕らえる必要があるのです。そしてこれは、ISO14001の取得という一面的なものでなく、事務事業や広報などあらゆる部分と組み合わせられた環境に関する施策的な一貫性があることが前提なのです。ISO14001の取得により市民や事業者の環境意識の向上を図るとしても、単に取得自体を目的化するだけでは実効性は乏しいものであり、ISO14001の取得を環境施策の戦略、戦術に組み込んでいくという首長自身のビジョンが内在していることがあってはじめて、ISO14001の取得が市民や事業者の環境意識の向上に繋がるものではないかと思います。

次に組織経営におけるISO14001的マネジメント方式の導入については、現行の行政組織運営における問題を解決するひとつの手法であることには違いありません。ただ、行政組織にどう取り込んで活用するのかと言う基本的な経営戦略が必要となります。例えば、トップマネジメント方式はボトムアップにより仕事の方針を組織的にオーソライズしていく日本的組織経営と本質的に対極のものですが、そこには結果に対して上司も部下も信賞必罰による成果主義と敗者復活の組織ルールが内在しています。これに対し「輪をもって尊しとなす」式の日本型組織の場合は年功による序列を原則とし、成果よりも万事恙無いことが重視されます。つまり表面的な組織の意思形成の過程がそれぞれ違うだけでなく、組織文化そのものが違うのです。ISO14001はもともと規格に基づくシステマチックなものになっているため、この部分では既存の組織にトップマネジメント方式を導入し運用していくことは可能ですが、ではこれを呼び水に行政組織全体、業務全体に拡大してあらゆる仕事にトップマネジメント方式を導入しようとしても、組織文化の違う既存の組織の坩堝(るつぼ)ISO14001を投げ込むだけで組織全体のマネジメント方式が変換することはありえないのです。

また、ISO14001によるマネジメント方式の特徴として、P(計画)(実行)(監査)(見直し)を繰り返し業務などのレベル向上を継続しておこなうというものがありますが、これはQC活動と似たようなものです。ただ、行政の世界では民間で行われているQC活動のようなものがほとんどないため、品質管理(QC)と言う概念が定着していません。QC活動では常に自分達の仕事についてP(plan)(do)(see)することが習慣付けられますが、行政サービスの場合は、品物の売上のように単純数値化して比較することはできないため、成果をどう評価するか自体にも難しさがあります。このように、行政という民間企業とは異質な仕事をする組織にISO14001的マネジメントシステムをいきなり導入しようとすることは、地盤も基礎もないところにいきなりビルを建てることに似ているのです。ISO14001的マネジメント手法を導入する試みはこれからも続けられるでしょうが、経営トップ自身(首長)が既存の組織そのもののあり方について改善方向を見極める洞察力と組織の体質を変える強固な意思をベースとして、行政サービスの向上のための目的合理性を持ちえるマネジメントシステム構築が果たせれば、まさに行政のイノベーション手法としてISO14001的組織マネジメントはとても意義あるものになると思います。

次に、「経費節減などの行革効果」についても、先に述べたように即物的見方をすれば確かに効果があるとは断言できないものです。しかし、もう少し大局的な見方をすると事情が変わってくるのです。一つの例としては市町村にとってゴミは宝の山であるということです。一般家庭の排出ゴミの処理は市町村の仕事とされていますが、この家庭ゴミの処理に大体の場合1トンあたり3万円前後の経費を市町村は負担しているのです。ごみ収集の方法、ゴミ焼却施設の規模能力、最終処分場の関係からどこでも同じとはいえませんが、大体似たり寄ったりの額が掛かっているのです。このゴミ処理費というのはいわばゴミを原料に「灰」を作るためのお金と言ってもいいものであり、その後は何も生み出さないお金、捨ててしまうようなお金に近いのです。家庭からのゴミの発生はどこの市町村でも年々伸びており、多くの予算が灰を作るためにつぎ込まれているという事実があります。仮に家庭ゴミの減量化が図れることができれば、この灰を作るために使われていたお金が、教育や福祉のために使うことができるのです。つまり、今までに述べてきたような経営戦略としてISO14001の取組みを通じて、市民等の環境意識向上を図ったり、あるいは組織活性化向上策としてのマネジメント手法を導入したりというものが有機的に結びつくことで、ゴミの減量化や資源循環型の地域社会が構築できると結果的にゴミ処理費が低減すると言う構図ができるのです。このような長期的、大局的な視点からみると、ISO14001の取組みは、行革的要素を持ちえるということができるのです。
県内白井町や新潟県上越市から始まった地方公共団体のISO14001の取組みは、最初に述べたように燎原の火のごとく全国の市町村や都道府県に広まってきています。取得に向けた動きにはそれぞれの思惑や都合があってのことでしょうが、何を目指して取得し、あるいは取得しようとするのでしょうか。現在のところすでに取得した地方公共団体でもこれによって刮目(かつもく)すべき成果があったと言う話は聞いたことがありません。ISO14001自体、地道な環境取組みのマネジメントシステムですから、一朝にその成果を出せるものではありませんが、ある意味、現在のこれらの動きも地方公共団体における大いなる実験の段階にまだあるのでは無いでしょうか。


編集部から2月23日、東金市が国際的環境管理マネジメント規格のISO14001を取得した、とのニュースが報じられました。これは千葉県内の31市で初めて、行政機関では白井町,環境研究所に次いで3番目の認定になります。早速、取得までの経緯や今後どう運営していくかなど記事にしたいと考え、各方面に問い合わせたところ、東金市役所経済環境部環境保全課の高宮文夫氏に原稿を依頼することができました。ただし高宮氏は、ちば環境情報センターの会員ではなく、また執筆にあたって上司の承認は得ているものの、全く私的な立場で書くという条件で引き受けていただきました。かなりの長文で、2回に分けての掲載も考えましたが、本質をとらえるには一気に読めた方がよいと全文掲載しました。なお、原稿を依頼するにあたり、成東町助役の松井衛氏,成東高等学校教諭の高地伸和氏に大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。


「CO住創(こじゅうそう)」を立ち上げて

印旛郡酒々井町 後藤良仁

私は、建築やランドスケープにかかわって、住まいやその周辺の住環境のデザイナーとして、生計をたてております。数年前から、環境学習プログラムを企画実践するようになって、個々の住まいから、住まいの周辺にいたるまで、住まい手である皆さん自身が、もっと自分達の「住環境づくり」にかかわっていくということが、環境をも良い方向にかえていくことにつながる、と思うようになりました。私たちの住環境の中で、かけがえのない宝ものをさがしてみましょう!自然?・・・そうですね、他にもいろんなものが発見できませんか。
私は、特に今、問題をかかえている子供達やお年寄りの立場で考えると、もっと多様な人たちとさまざまなかかわりがもてる暮らしができたら、すごい宝物になるのになあ、って思います。 そうした思いへの一つの取り組みとして、今年にはいって、住民主体の住まいづくりをめざす「CO住創(こじゅうそう)」という会を立ち上げました。コーポラティブ住宅というのを聞いたことありますか?複数の人、複数の世帯が集まって、協働でつくる住まいのことをさすことが多いようです。「CO住創」では、土地や建築の専門家も何人か含めた企画メンバーで今後の活動方向を話し合っている段階ですが、現在のところは、場所は、都会に近い千葉、船橋、市川といったあたりを考えてます。ユーザー構成は、ファミリー世代とかに固まらずに、多世代の人たちがまぜごはんのように混ざりあい、響きあうような方向をめざし、まちのマイナスがプラスに転化していくように、まちとの積極的なかかわりあいをしていこうと考えています。
骨子が固まりしだい、心ある土地のオーナーや、住まい手となるユーザーとの出会いの場を作っていく計画ですので、こうした住まい感に共感される人、ぜひ今度、「CO住創」に来てみてください。


野草はおいしかった!

416日(日)千葉県市原市の能満谷津で「谷津の観察と野草を食べよう会」(主催:ちば環境情報センター)をおこないました。朝のうちの雨も上がり、JR八幡宿駅に元気な老若男女16名が集まりました。能満谷津は長さが3qほどもあり湧水が豊富で、土水路には絶滅危惧種のホトケドジョウがたくさん棲んでいます。
カントウタンポポとスミレ(タチツボ,ニョイ)だらけの谷津田の道をゆっくり歩きながら植物観察したり、採りすぎに注意しながら思い思いに食べられる野草を摘んだりしました。昼食に野草を料理し、ネイチャーゲームをして、帰りにカワセミ観て、大満足の一日でした。
野草を採ることが自然破壊につながるという考え方もありますが、「食」を通して自然の恵みを実感としてとらえることは、どんな説法を聞くより環境保全の意識を高める効果があると思います。先人達が身近な自然を大切にしてきた理由は、そこが命を与えてくれる場だったからでしょう。先人達が残してくれたこのすばらしい環境を、次世代が受け継げるよう頑張りましょう。また企画しますので、皆さん参加してください。

当日のメニュー
天ぷら…タラの芽,ハリギリの芽,ニワトコの芽,ゼンマイ,ヨモギ,カントウタンポポ
ゆ で…ミツバ,セリ,クレソン,カラスノエンドウ
炒 め…フキ,ツクシ
生 食…ノビル,タネツケバナ,タケノコ
飲み物…カントウタンポポコーヒー

ちば環境情報センター
総会と懇親会のお知らせ

日時:610日(土)
総会10:0012:00
懇親会
12:0014:00
会場:ちば環境情報センター事務所

3回サポーター研修会
環境に関心があって何かしたい人,仲間を増やしたい人,
アイデアが欲しい人を対象に、今年も恒例のサポーター研修会をおこないます。
実践計画を作って必ず行動に結びつけます。ぜひご参加ください。

会 場:ちば環境情報センター事務所
日 時2000年5月27日(土) 10:00〜19:00
参加費:2,500円
主 催:ちば環境情報センター


編集後記:今年も平山の谷津にはオオタカとフクロウが現れました。
田んぼにはレンゲがいっぱい。カエルの「さえずり」も、もうあふれています。  (
mud-skipper