ちば環境情報センター
2005.12.7発行    ニュースレター第101号
代表:小西由希子

目次
  1. 千葉県下の里山の原野化とは
  2. フォトスタンドづくり
  3. 下大和田で「森の手入れの安全講習会」が行われました
  4. 生き物の形には意味がある〜形の不思議〜
  5. 環境まんがカレンダー「里山どんぐり」

千葉県下の里山の原野化とは

 東京都文京区 荒尾 稔 

 外来野生動物の跋扈(ばっこ)と残土・産廃

この春に実施した第2回里山シンポジウムで、外来種の問題を考えるための「野生動物分科会」が開催されました。
山の中でのツキノワグマ等の思いがけない場所への出没や、突然の遭遇による偶発的な事故が急増しています。次いで、アライグマやキョン,タイワンザル等外来種の激増です。いずれも、中山間地での農作物被害は深刻です。これに加えて、千葉県内ではいたる所で、残土・産廃の廃棄場所に突然遭遇します。
どちらも、近隣、そして市民のこうむる被害や影響は甚大で、問題解決は大変困難です。
里山は、適当に人の攪乱があってはじめて機能する場所として、数千年の歴史を刻んできました。日本人は、やおよろずの神が宿る場所として尊重してきましたが、その仕組みが壊れかけてしまったのです。
その理由は、
(1) 里山ではお金が稼げないために若者が立ち去る。
(2) 地域への投資がされない。なぜって、バブルの後遺症で大企業が購入した土地を、もてあまして放置している等のケースが多い。 
(3) 本来、手入れすれば価値の高まる森林が、価格下落で価値を無くし、山を持っているだけで赤字を産んでしまう状態に。
(4) 里山も谷津田も、お米を作る立場では採算が取れない。都市住民は安易に海外からの輸入品で間に合わせてしまう生活習慣が定着して、都市と農村部の相互信頼関係までもが、おかしくなってきている。 
(5) 何よりも行政組織が、どのようにこの現実を理解し、手をこまねいてしまっているのか。
 現実が先に走ってしまい、行政側が現場を見ていないまま理解不足で、何事にも対処がしにくくなっている、まさにそこが最大の課題であり、問題点です。

残土・産廃ごみロードの確立
残土・産廃が千葉県へと、とうとうと流れ込む「シルクロード」ならぬ「ごみロード」がしっかりと出来あがってしまいました。
東京都,埼玉県,神奈川などから、大きな船に積み込まれ、千葉県内の港へ。待機している大型ダンプに積まれ、内陸部へ吸い込まれていきます。どこかに放置した後(県が把握管理しているゴミは2割までとか)空になったダンプは、また港に戻って、ゴミを積み、再び里山や谷津田の何処かへ残土・産廃を放棄に向かうのです。
さらに、県外のゴミは、千葉の里山の産業廃棄物中間処理施設へ搬入され、破砕され、燃やされます。
千葉県人は、争いを好まず、いままで豊かすぎて平和であったがために、個々の農家または各市町村の問題として、残土・産廃等が処理されてきているようです。
東京や埼玉、神奈川県の人は、すでにおおっぴらに、千葉の里山にゴミを捨てて何が悪いという感覚が広がっています。それは、千葉県人が何もこのことで発言しないことにも大きな原因があると、最近思うようになりました。
千葉県としても、どこかできちんと歯止めをかけないと、さらに恐ろしいことになると予感がします。
千葉県では干潟のほぼ90%を埋め立て、干潟は三番瀬や木更津市小櫃川河口周辺に少し残っただけです。内陸部の湿地も90%を埋め立てて、乾田化した影響も大きいのです。
数千年の歴史と豊かな精神文化を構築してきた千葉県の里山や谷津田の保全を真剣に考えれば考えるほど、あと5年、後10年保全できれば、日本人の思考も変わるのではないかとの淡い期待感もあります。次の世代まで、無限の価値ある里山や谷津田を保全していくことが重要と私は考えています。
トキやコウノトリ,タンチョウ,シジュウガラガン,サカツラガン…… 大型の渡り鳥の殆どを絶滅寸前に追い込んでしまった過去の歴史が、今思い起こされます。

千葉市緑区の残土処分場
2004年11月20日 撮影:田中正彦
多古町桜宮自然公園 2004年3月14日 撮影:田中正彦

 なぜ今、中間処理場設置場所が多古町なのか
”おれおれサギ”と良く似た形で、農家は単に田んぼ1枚にゴミを置くだけ、月に○○円毎月支払いますという甘言に、ひょっと乗ってしまった結果、一晩でものすごい量の残土・産廃を持ち込まれるというケースが圧倒的と聞いています。人が良いのです。同時に、いままで自立していて、生活も豊かであるが故に、行政との接点も殆ど無く、相談先もない。
多古町では今、産廃中間処理場の建設問題が持ち上がっています。計画地染井は町発足の原点で、桜宮とは京都と特別につながる歴史ある所です。染井地区には、日本で唯一の「慣例水利権」があります。日本ではここだけしか残っていません。日本で最初の本格的な産直運動体「多古町旬の味産直センター」が20年前に立ち上がった所でもあります
しっかりと自立した農家の緊密なチームが形成されています。「多古米コシヒカリ」はかつて日本一にもなり、現在も千葉県内で一番のブランドです。2005年11月13日に、BRAぶら祭りが開催されました。13軒の農家の庭先で歓待を受けて食べ歩く祭りで、毎回1,500人を超す都会からのお客さんが来てくださいます。他には例のない農家主体のスローフード的な催しです。BRAとは、イタリアのBRAという町のお祭りにちなんで付けられたそうです。
桜宮自然公園は、全部で5haほどですが、多古町内には、同じ規模の里山が100ヶ所も存在しています。どこまでもうっそうとした樹林帯と里山・谷津田がつながっており、トキやコウノトリを放鳥するにはうってつけの貴重な場所でもあります。里山から絞り出る粘土質と湧き水が、美味しい多古米を産み出していると言われています。
法律がどうであれ、数千年の歴史と景観と、ブランド価値等を、地域の歴史をすべて無視して、東京都から搬入されるゴミの処理のために、汚されていく事が許されていいはずありません。多古町での運動の成果が千葉県にとっての一つのエポックになりますよう支援していきたいと考えております。
これまで多古町には、残土・産廃処分場は1ヶ所もありませんでした。桜宮自然公園をつくる会の所英亮さんや、多古町環境を守る会,桜宮自然公園をつくる会の皆様などの努力で、作らせなかったという事も聞いています。この多古町に、産業廃棄物処理施設が設置されるようであれば、あとは千葉県下どこで反対運動が行われても、対抗するのは困難であろうと考えられます。


フォトスタンドづくり

生浜西小学校5年 寺本 勇司 

 ぼくはこひつじハウスの工作教室(クラフトデー)に参加しました。作ったものはフレームとフォトスタンドです。材料は木です。そしてかざりにビーズや色のついたひもなどを使いました。

こひつじハウス クラフトデイ参加者(2005年11月12日)

 木を切る時には、最初はふつうののこぎりを使っていましたが、ぼくがむずかしそうにしていたので、スタッフの人が、「小さいのこぎりの方がやりやすいよ」といってくださり、それでかん単に切ることができました。
その他に、木をなめらかにするために、電動やすりをつかいました。これは初めて使ったので、すこしきんちょうしました。実さいに使ってみると、大きな振動が手に伝わって重く感じました。フレームもフォトスタンドもうまくできたと思います。お母さんも気に入ってくれました。
今度は、木で飛行機を作ってみたいと思います。スタッフのみなさん、ありがとうございました。


下大和田で「森の手入れの安全講習会」が行われました

 千葉市緑区土気町 網代 春男 

 11月26日、里山活動の初心者を対象にした「安全に配慮した森の手入れ」の講習会が行われた。
ちば里山センター,ちば環境情報センター,千葉県が主催し、ちば環境情報センターが地権者と里山協定を結んで手入れをしている下大和田谷津の斜面林の森に、参加者10名と講師3名が集った。
まず、ちば里山センターの堀田さんから「ボランティアで里山の手入れなど作業をする人が多くなっているが、重大事故が多発している。何よりも安全に作業をすることが大切」と事故要因をあげての話しがあった。
次いで、本日の実践の講師、千葉県林業サービスセンターの木村さんから資料「森林・林業における安全作業の基本」が配布され、安全作業の基本についてじっくりと話をしていただいた。
技術的なこと,知識的なこともさることながら責任者を決め、開始時・昼休時・終了時のミーティングによりチームが一体となって作業にあたることも安全に作業をする上で大切との話しが印象に残った。

木村講師(左端)がチェーンソーの使い方を指導する 直径約40cmのサワラを伐倒して思わずにこり

 本日の責任者、石橋さんが開始のミーティングで安全に作業をすることを確認し、いよいよ実技となった。参加者ひとりひとりが木村先生の指導のもと、チェーンソーで木を伐った。ここは、雑木林なので、混生しているサワラを主体に伐った。
私は先ずは細めの木で実践。「伐倒方向ヨシ!」大きな声で指差し呼称して張り切って受け口を切ったが、切り取った受け口はなんと方向が違う。受け口を切り直し、追い口を切って伐倒。切り口を見れば径の1/4と言う受け口が半分にもなっていた。
伐った木はみんなで枝を落とし、玉切りをして林縁へ運び片付けた。が、同時に一本の木にみんなで取り掛かるのは自分の作業だけにそれぞれ集中してしまうので危険とのこと。本来は伐倒した人がひとりで枝掃いから玉切りまで作業するのが基本とのこと。
みんなひと通り実践が一巡したところで昼食。昼食をしながらのミーティングでは、日頃かかわっている活動など話が弾んだ。ちば環境情報センター心尽くしの豚汁と焼き魚にも舌鼓を打った。見通しが良くなった田んぼにはカワセミやモズが姿を見せていた。
午後はまず、障害物があったり、掛かり木になりそうな難しい2つの木を木村先生にお願いした。チルホールを使って牽引しながら正確な方向へ伐り倒した。地響きと同時に歓声があがった。正にプロの技を見せていただいた。1本はコナラで萌芽更新の見本樹にして、材はシイタケの原木にすることにした。
 折角の機会、私は径40cmの太い木に挑戦。木村先生に見てもらいながら、受け口を切り、追い口を切る。先生のそこまでと言う声でチェーンソーを止め、楔を入れる。楔はただ入れると言うのではなく、入れる場所を先生は慎重に測られた。
 楔の位置が決まって、鉈の背で打つのだが、1回2回3回と空振りばかりで当たらない。いささか慌てる。やっと5回目あたりから当たるようになった。
 2〜3回ずつ交互に打つ。叩いても叩いても木はびくともしないように感じていたが、周囲から木が揺れてきたとの声があがる。なお、楔を打ち続ける。やっとメリメリ音がしてゆっくり倒れる。スローモーションを見るようだ。地響きが身体に伝わったときは、感動した。「つる」を確実に残し、楔を2個使い、正確に伐倒方向を確認しながら倒すことが、安全確保に大切と実感した。
 玉切りひとつについてもチェーンソーが噛んでしまい動かなくなることが、再々起こった。
私は以前にチェーンソーの講習を受けたことがあったが、それは講習会場で講義とチェーンソーの掃除や目研ぎが主体で実際に木を伐る実践はほとんどなかった。以来、触れていなかったので実技をこうした場で教えていただけるのは有り難かった。
チェーンソーは使い慣れることも、必要と感じた。 木村先生はなかなか好感がもてる好青年で、みんな木村フアンになってしまった。楽しく講習が出来た一因でもあった。有難うございました。


生き物の形には意味がある〜形の不思議〜

千葉市緑区 小田 信治 

 「生物の進化は自然淘汰によるものである」ダーウィンが1859年に著書「種の起源」で発表し、ダーウィンの進化論として有名です。
 自然淘汰とは、生存競争に勝ち残った生物だけが子孫を残せることで、自然選択説とも言います。その競争に勝つために生物は進化する、すなわち、自分の体のデザインを造り変えるというものです。例えば、キリンの首が長いのは、サバンナに生えるアカシヤなどの高木の葉を食べるために進化したと説明されています。また、ダーウィンはクジャクの雄の尾羽をみて、生存に不利なのにどうしてか説明がつかず、悩んだ末に性淘汰(性的選択)と言う説を提唱しました。これは、雌(配偶者)の獲得をめぐって他の雄との競争のために進化すると言うものです。この説は、ダーウィンも十分研究が進まず、当時はほとんど注目されませんでしたが、近年、動物行動学の研究が進み、この説が正しいことが確認されています。むしろ、この性淘汰こそが進化の原動力ではないかとも考えられています。
 このことは、私たちの体の中にも見ることができます。人の雄(男性)の生殖器(ペニス)は、先が大きくなって、返しがついています。なぜ、松茸のような形なのか。不思議に思ったことはありませんか。相手を喜ばすため?! これも事実の一つではありますが、これだけで体のデザインを決めるほど、生物は暇ではありません。このような形の生殖器をもつものは、人に近いチンパンジーの他にムササビやリスが知られています。これらの動物は、ハーレム形成(1匹の雄が複数の雌を占有する)ではなく、雌が複数の雄と交尾をします。ハーレムタイプの場合は、雄同士が雌を獲得するために熾烈な戦いをするので、雄の体は雌よりも大きく、鹿では角も大きくなります。雌と交尾ができるのは戦いに勝った雄だけですが、生殖器は小さく、交尾時間も長くはありません。一方、雌が複数の雄と交尾する乱婚タイプでは、雄と雌の体の大きさはあまり変わりませんが、生殖器は大きく、交尾時間も長くなります。そして、松茸の意味は、別の雄の精液を掻き出すためのものなのです。また、射精まで時間がかかるのもそのためだと考えられています。リスでは精液が雌の体内でロウ状に固まり、他の雄の侵入を阻止します。これは交尾栓と呼ばれています。チンパンジーでは、睾丸の重さ(120g)は人(40g)の3倍にもなり、精子数は一回あたり6億個で人(2億5千万個)の2.4倍にもなります。ちなみに、ゴリラはハーレム形成をするため、雄は170kgの巨体の割に睾丸は30gしかなく、精子も5,000個程度です。チンパンジーの場合は、それだけ競争が激しいということでしょう。こうした競争は精子間競争と呼ばれています。男性が自分のものの大きさや回数、時間を自慢したがるのもここからきているのかも知れませんね。


環境まんがカレンダー「里山どんぐり」

 当センター会員の津山彰彦(つやまあきひこ)氏の漫画作品がカレンダーになりました!
朝日小学生新聞で連載された「里山どんぐり」の漫画が、たっぷり掲載されています。当センターのフィールドである下大和田谷津田でひらめいた作品もいくつかありますよ。来年のカレンダーにいかがですか?1部2,000円で、つやま氏の直筆サインが入ります♪
お問い合わせ・お申し込みは、047-476-0515津山宅まで。
 (伊原)

編集後記:本文に網代春男さんが投稿して下さった安全講習会に参加しました。そこでチェーンソーの使い方を学びましたが、あっという間に樹齢数十年の木を倒す快感とともに、戦後の里山を見守ってきたその歴史を一瞬にして終わらせてしまうということに、一抹の淋しさを感じました。今年も慌ただしい師走です。mud-skipper