ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第142号
目 次
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千葉市緑区 高山 邦明
■はじめに
保全生態学と呼ばれる自然科学の分野があります。保全生態学は「生物多様性の保全」という明確な実際的目標をもち、現代生物学のあらゆる経験・技術を駆使してその実現のための指針と技術の確立を目指す学問です(鷲谷・矢原,1996)。使命を持って生まれたまだ若いこの学問分野は谷津田の保全に関わる私の興味をひき、素人ながらその入門書「保全生態学入門」(鷲谷・矢原,1996)を読んでみました。難解なところもあって十分な理解はできていないのですが、これまでの谷津田での自然体験に照らし合わせて多くの理論がすんなりと入って来るのがとてもおもしろく感じられました。
そこで保全生態学のキーワードを紹介し、一見難しく感じられる言葉の意味をみんなの谷津田での経験に基づいて易しく考えて、生物多様性の理解を深めたいと思います。
キーワードは「生物多様性の階層性」、「中程度攪乱説」、「キーストーン種」の3つです。
■生物多様性の階層性
「生物多様性」と聞くと、いろいろな生きものがたくさん住んでいることと一般に理解します。谷津田では様々な種類のトンボやカエル、草花が見られて生物多様性が高いとみんな感じています。そこを一歩踏み込んでみると、「いろいろな生きもの」というのは単純に種類が多いということを越えた深い意味があるというのがこの「階層性」です。
生きものの種類が多いことを「種多様性」と呼んで、生物学の世界でかつてはもっぱら種類が多いことが研究されてきました。谷津田でもたとえばトンボ一つとってもアキアカネ、ナツアカネ、マユタテアカネ、ノシメトンボ…と10種類を軽く越えるトンボが下大和田や小山町で暮らしていて、種多様性が高いと言えます。
トンボの暮らしを良く見ると、田んぼの稲の近くでたくさん見られる種類(たとえば、シオカラトンボ)、斜面林の縁にある水路の近くでよく見かける種類(オニヤンマなど)、ため池のように水深の大きい水たまりの近くに暮らす種類(コシアキトンボなど)というように生活場所によって種類が違っています。様々な生活場所があって、それによって生きものの種類が豊富になっていることを「群集・生態系の多様性」と呼びます。谷津にはいろいろな環境があってその場所ごとに違う生きものが暮らしていることによる多様性です。谷津田と言ってもたとえば田んぼの中と畦では生えている植物の種類が違うというのはわかりやすい例ですね。さらに田んぼの中はどこでも一緒かというと、下大和田のYPP田んぼでも古代米田んぼとコシヒカリ田んぼでは見られる植物の種類が異なっていて、たとえば、貴重種のトチカガミは古代米田んぼでしか見られません。同じく希少種のサンショウモが特徴的に見られる田んぼもあります。一見同じように見える田んぼですが、泥の細かさ、田んぼの深さ、湧き水のあるなし、水温条件など微妙な違いがあって、それが生物群集の多様性を生み出しているのでしょう。この辺の目に見えにくい微妙な環境の違いがもたらす多様性というのは恐らくとても重要で、谷津田に通っている私たちだからこそ認識できる貴重な情報だと感じています。谷津田には様々な環境がモザイクのように分布していて、生態系の多様性があるのです。圃場整備が行われて画一化された田んぼとは大違いです。さらに大きなスケールの環境として「景観(ランドスケープ)」の多様性という考えもあります。これは恐らく谷津田の景観、台地の上の畑の景観といったスケールのことでしょう。
一方、もう一つ目に見えにくい多様性として「遺伝的多様性」があります。これは同じメダカ、同じアキアカネといっても遺伝子のレベルで違いがあるということです。厳密には遺伝子を調べないとわからないのですが、たとえば、こんな経験からそれがわかります。小山町の近くの圃場整備が行われた田んぼで、初夏に農薬が使われたらしく、田んぼにたくさんのオタマジャクシやアマガエルの死骸が浮かんでいたことがあります。何とも心痛む光景でしたが、よく見ると死骸のそばで元気に泳いでいるオタマジャクシがいて、しかも死んだのと同じ種類でした。種類が同じオタマジャクシでも農薬に強い個体もいれば弱い個体もいるということを示しています。きっと遺伝子の多様性が発現した例でしょう。遺伝的な多様性があるお陰で農薬が散布されても絶滅することなく、命をつないでいかれるのです(嫌な話ですが)。気温などの条件はさほど変わらないのに下大和田のアカガエルと小山のアカガエルで産卵のタイミングが毎年2~3週間違うのも恐らく目に見えない遺伝子の違いがあるのでしょう。そういう理由からたとえば小山でつかまえたアカガエルを下大和田に放すことは止めた方がいいのです。
谷津田に足繁く通っている私たちは生物多様性の階層性が見えていたことに気づきました。 (以下次号に続く)
佐倉市 中村 春子
八ッ場ダム事業が税金の無駄使いであるばかりでなく、環境破壊や災いをもたらす公共事業であることは、このニュースレター137,139号で入江さんと大野さんが書きました。今回は裁判の状況を報告したいと思います。
私たちは八ッ場ダムを止めるため、現地見学会、学習会、街頭での訴え、事業が止まったあとの現地生活再建のための法整備を求める署名集めや国会への請願、政党へ働きかけ、マニフェストに八ッ場中止を入れるなど、できる限りの活動をしてきました。
利根川流域住民の「八ッ場ダムは要らない」裁判
この中で中心的な活動は、2004年11月に、利根川流域6都県の住民が国への負担金の差し止めを求めた住民訴訟です。住民に利益のない不要な事業への公金の支出は違法であり、「八ッ場ダムは要らない」という訴えです。
裁判が始まった頃、被告県側弁護士は、「この訴訟は政策論争を裁判に持ち込むもので、住民訴訟の対象にならない」として、裁判の入口で訴訟を封じ込めようとしていました。しかし、裁判所の主導で、●財務会計行為 ●利水・治水上の不要性 ●ダムサイトの危険性 ●地すべりの危険性 ●環境に与える影響 などが裁判の主題となってからは、過大な数値を掲げ、渇水や洪水被害から住民を守るため、必要不可欠な事業であると主張しています。原告側はこの4年間、多くの弁護士の皆さん、研究者等の専門家の方々のご支援とともに、情報公開請求での行政文書の入手・分析、建設予定地周辺の調査、利根川でどの程度、堤防整備が進んでいるかの実際の確認など、多くの時間と労力をかけ、真実を追究するための努力をしてきました。これにより、東京都や各県、国交省の“ウソ”“いいかげんさ”が浮き彫りになりました。
誰のためのダム事業か
この「八ッ場ダムは要らない」裁判の中心課題である利水については、節水が行き渡り、人口も減少、産業構造も変化し、すでに水余りは数字が表しているのに、今は10年に一度の渇水対策を名目に、必要性を主張しています。
治水については、昭和22年のカスリーン台風級の台風が再来したら、関東平野では大氾濫が起こり、34兆円もの被害が出るとし、八ッ場ダムは必要であるとしてきたのに、情報公開で入手した国の資料で、洪水量の数値が“ウソ”だったこともわかりました。また、裁判で証人に出た、関東地方整備局の河川部長は、「どれだけ氾濫が起きるか調べたことは一度もない」と法廷で言っていたのには驚きました。
書けばきりがないことですが、国交省はただダムを造りたい。誰のためのダム事業かと言えば、国交省のメンツを保つための公共事業でしかあり得ないのが、今の「八ッ場ダム事業」です。そしてこれに反論もせず、唯々諾々と巨費を投じているのが千葉県を含めた各都県です。
千葉県も結審間近
1都5県のうち、東京は5月11日に判決が出ます。千葉県は5月12日、第19回目の弁論があり、6月23日、約5年をかけた裁判の集大成である最終弁論(結審)が行われます。いつも満席でうれしく思いますが、今度も新しい法廷を満席にして、市民の意気込みを示したいと思います。ぜひ、傍聴にお出かけください。
第19回裁判 5月12日11時 ~ 601号法廷
第20回裁判(結審) 6月23日10時半~ 601号法廷
大網白里町 平沼 勝男
食卓に良く並ぶお刺身と言ったら、すぐに思い浮かぶのがマグロではないでしょうか。お寿司でも主役の魚です。日本のマグロの消費量はとても大きく、2006年日本の消費量は54万トンです。これは全世界の消費量の26%にあたります。最近増えてきたものに蓄養マグロ(養殖マグロ)と言うものがあります。これについては次回にゆずります。今回は天然マグロのことを皆さんにお伝えします。
まずマグロの種類ですが代表的なものは、クロマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロ、ミナミマグロ(インドマグロ)です。クロマグロはマグロ類の中では最も緯度の高い(北であるということ)海域を回遊します。そのため、旬の11月から1月に最も脂が乗り、最高級のマグロとなります。最近、青森県大間のマグロ漁の様子がよくテレビでよく放映されています。あの漁場は回遊の最北端に近い場所です。
メバチマグロとキハダマグロは世界中の暖海に生息しています。お手ごろな刺身としてスーパーで良く見かけます。メバチマグロ(バチマグロ)は関東を中心に、キハダマグロは関西を中心に消費されています。ビンナガマグロ(ビンチョウ)は最近スーパーで刺身が売られるようになり、回転寿司でもよく見かけるようになりました。以前は身の色が悪いことからもっぱら加工用の原料として利用されてきました。缶詰のシーチキンはこのビンナガマグロを原料にしています。
ミナミマグロは高級寿司ネタとして利用されていて知名度は低いかもしれません。主にインド洋で漁獲されます。
マグロは遊泳力がとても強く、回遊と言っても太平洋を渡るほどのものです。この強力な遊泳力を支えているのが優れた筋肉、つまり我々が食べているマグロの身です。マグロの身は調べてみますと美味しいだけでなく栄養学的にも優れています。高タンパク質であり、心臓病や動脈硬化を防ぐ役割をする不飽和脂肪酸を多く含む。また赤身には良質の鉄分やビタミンB12を含み貧血の予防にもなります。他にも体内の水分量を適正に保ち、神経や筋肉の機能を助けるカリウム。肝臓の働きを助けるメチオニン、シスチンなどのアミノ酸も多く含みます。
2008年度にマスメディアに登場した記録 |
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事務局より 2008年にマスメディアに登場したちば環境情報センターは22回に上りました。文部科学省後援のインターネットテレビ「子ども放送局」では、2回にわたり千葉市緑区下大和田谷津田で行っている米作りが紹介されました。まだ配信中ですのでぜひご覧ください。 第1回「みんなでわいわい田起こし!田うえ!」(7月1日~) http://www.niye.go.jp/kodomo-bs/ch_program.php?progid=2 第2回「みんなでわいわい谷津田で稲刈り!」(12月2日~) http://www.niye.go.jp/kodomo-bs/ch_program.php?progid=26 NPO法人になって6年経過し、谷津田の保全・割り箸のリサイクル回収・各種講座の開催・毎月のニュースレターの発行・HPでの情報発信などを通じて確実に評価されてきていると思います。ニュースレターの折り込みイベント情報案内を利用して、ご参加の皆様の盛り上げで成長してきました。感謝申し上げます。 今後も楽しく充実したイベントを企画して会員はもとより広く市民の方々に満足していただけるよう活動を展開したいと考えておりますので、ご協力よろしくお願いします。運営委員一同 |
発送お手伝いのお願いニュースレター6月号(第143号)の発送を 6月 8日(月)10時から事務所にておこないます。 |
編集後記: 今年のゴールデンウィーク、高速道路はどこも大渋滞。新幹線などはゆったりしていたようです。ETC効果とのことですが、CO2削減のため公共交通機関を利用しようとの国の呼びかけは、一体何だったのでしょうか。地球温暖化防止や生物多様性保全が最重要課題となっている今、あまりにもちぐはぐな政策です。 mud-skipper