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ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第235号 

2017.2.11 発行    代表:小西 由希子

目   次

  1. いま、なぜ石炭火力発電所なのか?蘇我地区に石炭火力発電所計画!
  2. 海岸砂丘における生態系サービス  その6「自然の恩恵を受けた酒造り」
  3. 木と建築で創造する共生社会実践研究会(A-WASS) 特別講演会

いま、なぜ石炭火力発電所なのか?
蘇我地区に石炭火力発電所計画!

(仮称)蘇我火力発電所を考える会  小西 由希子 

 JFEスチール(株)東日本製鉄所構内に、石炭火力発電所((仮称)蘇我火力発電所)が計画されています。多くの市民が利用する蘇我スポーツ公園サッカー場(フクダ電子アリーナ)のすぐ隣(西側)です。
 石炭火力発電所からのCO2の排出は天然ガスの2倍、高効率の発電所IGCC(石炭ガス複合発電)でも石油火力発電と同程度のCO2が排出されるそうです。さらに、窒素酸化物や硫黄酸化物、降下ばいじんや浮遊粒子状物質、PM2.5などの大気汚染物質も多く排出されます。また、石炭の燃焼で水銀などの有害な微量金属類が排出されますし、発電に伴う温排水も海域に大きな影響を及ぼします。
 蘇我地区では長年住民は工場からの大気汚染に苦しみ1975年には「青空裁判」で住民が闘ってきた経緯があります。また千葉市でも大気汚染対策には長い時間をかけて事業者に粘り強い指導を重ね努力を続けてきました。それでもまだ光化学オキシダント(Ox)は全測定局(一般局11局)で環境基準及び千葉市環境目標値を達成していない状況です。

 
電源別のCO2排出量(g-CO2/kWh)
認定NPO法人気候ネットワークより

 さらに蘇我スポーツ公園は千葉市の広域防災拠点に指定されており、災害時には救援物資の集積場所や自衛隊の活動拠点としてヘリポート等に使用されることになっています。地震によって火災発生の危険性もある火力発電所の建設は不適です。
 現在国内では47か所もの石炭火力発電所計画があり,そのうち5基が千葉県内です。千葉県にはすでに18の天然ガス火力発電所(2161.733万kW 原発20基分)が稼働しており、大気や海域での複合汚染も懸念されます。今後これ以上の発電所建設が必要なのか大いに疑問です。
 国は成長戦略として高効率の石炭火力発電を進め、2014年4月改訂の「第4次エネルギー基本計画」で石炭をベースロード電源※として位置づけています。
 石炭火力発電所については、2015年11月、市原火力発電所(100万kW 運営は市原火力発電合同会社)と秋田港発電所(130万kW)の計画に対し、丸川環境相は「温室効果ガスの削減目標を達成できない可能性がある」「現段階では是認できない」と経産相に異議を唱えています。しかし2016年2月、電力業界が「電気事業低炭素社会協議会」を新たに設立して自主的な温室効果ガス排出量削減の計画等を提出・報告させることを条件に、環境省は一転して石炭火力発電所を容認する方向となったのです。
 資源エネルギー庁は電力自由化にあたり「電力の安定供給や電気料金を抑えるべき」として石炭火力の抑制には及び腰、さらに最先端の石炭火力技術を海外に売り込もうとしています。環境対策が不十分な国には公害までも一緒に輸出することになるのです。
 (仮称)蘇我火力発電所の環境アセス「計画段階環境配慮書」は、温排水の動植物への影響は少ないとし、風の向きや発生回数からの大気汚染予測もせず、煙突の高さを景観の視点だけで評価するという、何ともお粗末な内容です。意見募集に際し市民説明は一切なく、積極的な情報公開に努めることがアセス審査会でも指摘されており計画段階から多くの課題があります。

※ ベースロード電源:発電コストが低廉で昼夜を問わず安定的に稼働できる電源のことを指す。原子力,石炭(火力),水力(流れ込み式),地熱。

海岸砂丘における生態系サービス
その6「自然の恩恵を受けた酒造り」

北総生き物研究会 金子 是久 

1.はじめに
 大正時代に千葉県(東京湾側)の海岸砂丘に記録されていた酒蔵(鈴木1997)の廃業理由として、調査結果から以下のことがわかった。
 1) ビール・ワイン等に嗜好が変化したことにより廃業
 2) 1923年の関東大地震で建物が倒壊し、再建が困難となり廃業
 3) 企業整備令(1942年公布)又は米不足による廃業
 4) 沿岸地域の工業化で地下水が多量に採取され、酒造りが困難となり廃業
 今回は、2) 1923年の関東大地震で建物が倒壊し、再建が困難となり廃業した理由について、関東大震災による被害状況も含め、詳細に記述した。

2.調査方法
 調査地の酒蔵情報については、関連資料(引用文献を参照)の他、調査対象の酒蔵のご子孫から廃業理由について聞き取り調査を行った。

 写真1 関東大震災による被害状況(左写真:那古町、右写真:北条町)(館山市立博物館安房震災写真集を引用)

3.結果および考察
 1923年9月1日に発生した関東大震災(最大震度7、マグニチュード約8.0、震央地:相模湾)では、死者・行方不明者が約10万5千人(大部分が東京都と神奈川県)、約10万9千棟が全壊し、熱海で12mの津波が発生した(今村2016)。
 千葉県では、死者・行方不明者が1,346人、2 万棟近い家屋が被災にあった。さらに、津波(館山観測所では1.8mを記録した)などによる流失、土砂崩れなどによる埋没、交通・通信機能も破壊され、被災地は生活の機能がほとんど失われた。特に、震源域に含まれていた房総半島南部の舘山町、北條町、那古町、船形町など8 町村で建物の倒潰率が9 割と甚大な被害を受けた(千葉県安房郡役所 1926)。詳細な被害状況としては、那古町は、ほぼ全部の家屋が倒潰し、船形町もほとんどの家屋が倒潰の上、3 分の2 が焼失し(写真1)、北条町、館山町では、家屋のほとんどが全部倒潰し、被害が大きかった。これらの地域の酒蔵では、関酒造部(那古町)、泉酒造株式会社(船形町)、安房製麹酒造株式会社(北条町)、佐藤酒造場(館山町)が震災後、数年以内に廃業した(千葉県 2009)。上記の酒蔵の詳細な廃業理由については、以下のとおりである。
 泉酒造株式会社は、当主であった和泉直次郎氏のご子孫の話によると、関東大震災で、店舗と居宅部分を残し、製造ライン(銀行の融資を受けて新築した酒蔵も含め)は全壊し、昭和初期の大恐慌で廃業したとのことである。北条税務署発行の大正13年改調酒類製造免許臺帳によると、大正15年11月20日には製造場拡張申告されており、関東大震災後も酒造業は続けられた。しかし、昭和5年7月12日に免許取消との記載があり、昭和の大恐慌の影響による廃業であり、ご子孫の話とほぼ一致していた。酒蔵跡は、現在、空き地である。
 関酒造部は、北条税務署発行の大正13年改調の酒類製造免許臺帳をみると、当主の関直蔵氏が大正14年9月9日に死亡し、関東大震災から2年後に免許取り消しの状態にあったことから、震災で建物が倒壊し、酒造業の再運営が困難となり、廃業に至ったものと考えられる。酒蔵跡は、現在、民家である。
 安房製麹株式会社は、当主の中目幸太郎氏が関東大震災にて死亡し、大正15年1月30日に免許取消と北条税務署発行の大正13年改調酒類製造免許臺帳に記載していたことから、当主の死とともに廃業したものと考えられる。酒蔵跡は、現在、民家である。
 佐藤酒造場は、当主であった佐藤家のご子孫の話によると、関東大震災で建物が崩壊し、その後、酒造業の再建が困難となり、廃業後は、酒屋に転身したとのことである。平成28年現在、酒屋は営業していない。

昭和の大恐慌とは
 発端は、第一次世界大戦による戦時バブル後に発生した1920年(大正9年)の戦後恐慌、さらには1922年(大正11年)の銀行恐慌、1923年(大正12年)の関東大震災による震災恐慌の発生が続き、特に、被災地の企業の振り出した手形を日本銀行(日銀)が再割引して震災手形としたことが事態の悪化を招いた。

引用文献
 1) 鈴木久仁直著(1997)ちばの酒物語~酒づくり・心と風土の歴史~.千葉県酒造組合.
 2) 今村千文(2016)北条税務署と安房の近代 平成28年度第1回 安房学講座 資料.
 3) 千葉県安房郡役所(1926)安房震災誌.千葉県. 
 4) 千葉県(2009)防災誌 関東大震災-千葉県の被害地震から学ぶ震災への備え-千葉県総務部消防地震防災課,千葉県
 5) 北条税務署 大正13年改調 酒類製造免許臺帳
 6) 館山市立博物館 安房震災写真集 

木と建築で創造する共生社会実践研究会(A-WASS)特別講演会

東京都江東区 中瀬 勝義  


         日時 : 2017 年 1 月 15 日
         場所 : 森の贈り物研究会“美夢”
         主催 : 木と建築で創造する共生社会実践研究会
         講演 : 速水亨(速水林業代表、日本林業経営者協会顧問)


 

国内林業のプラス面マイナス面
・ 一人当たりの使用料は減少しているが、自給 率は高まり、合板は 8 割が国産材使用に。ナノ ファイバー等の新しい木材使用がプラス面。
・ 人口減少で住宅着工数が下落中。木材価格の 下落、森林所有者の所得がない、再造林の放棄、 市民との関係が希薄などマイナス面も多い。
・ スギの立木価格に注目すると、1980 年の2.2 万円が 2010 年には 2600 円に下がったが、 現在は少し戻している。自給率も 32%から18%への下落が 30%にまで戻している。
・ 所有面積別林業経営の実態は、100ha 以下の自伐林家の経営は成り立つが 100ha 以上になると経費倒れとなり、木材価格低下で、国内の林業は補助金がなければ成立しない。
・ 1998 年の京都議定書で森林吸収量が 3.8%認め られてから森林の多面的機能が重視され、間伐補助金が出るようになった。森林管理事業は利益が 出ても林家収入は激減している。森林所有者の所得の確保がなければ再造林は不可能である。
・ 農水には所得補償制度があるが、林業にはない。昔、林家は金持ちだったが、今は、森の所有者と管理作業者(森林組合等)が分かれている現状に問題がある。

 

国民との対話が必要な森林管理
・ 森林のあるべき姿。国民の求める姿。適切な森林管理。担う人育て。
・ 林野庁が細かい方針を打ち出し過ぎている。林家が考えなくなってしまっている。

速水林業の概要

・ 1790 年設立、紀伊半島南部の尾鷲林業、1070ha、針葉樹 813ha
 広葉樹 249ha、生態保護林 60ha、路網 45m/ha、雇用 13 名・平均年齢
  43 歳、国内最高度に評価されている。
・ 機械化は早くから導入。従業員には議論を進め、想像力を持った
 人間の組織化を進めている。
・ 地域住民に理解してもらえる経営。環境的に豊かで美しい森林。
 安全確保、機械化、300 年後の森を想定して経営している。流通の
 先を考えた伐採・造林・仕分けを目指している。
・ 速水林業の森には毎年 4000 人以上の人々が訪れ、訪問者は明る
 い人工林に驚かれる。   速水林業http://www.re-forest.com/hayami/
   
話題提供:赤堀楠雄(森先案内人)『日本林業の現状と課題』
・ 新聞社勤務後、林業ジャーナリ
 ストとして全国の森林を見、今は
 長野に在住
・ 全国的に生産は伸びているが、
 経費に食われ、所得に廻らないケ
 ースが多い低質材が主流の現状
 から良質材中心に向けた、良質な
 山づくりの技術開発、マーケット
 開発、人材育成、広報 PR 活動の
 強化が必要だ。全国の中で環境適応型の速水林業は将来を見つめた
 経営を行い、高く評価される。

所感:農林水産業の中でも林業は厳しい経営状況と言われているが、戦後の継続的な植林が功を奏し、 これからが利用・儲ける時代に入るとのこと。外国資源に依存した工業貿易立国が厳しくなってき たことから、地に足の着いた、自国の資源に依拠した農林水産業の活性化が必要になっている。“資源のない国”から“自然豊かな国”への転換が祈念される。
                 

【発送お手伝いのお願い】

 ニュースレター2017年3月号(第236号)の発送を3月8日(水)10時から事務所にておこないます。 発送のお手伝いをしてくださる方を募集しています。よろしくお願い致します。


 編集後記 :今なぜ石炭火力発電所なのか、調べれば調べるほど疑問が膨らみます。事業者は、「儲からなければ進めない」とも発言しており、お金儲けのために市民の大切な青空を渡していいのか。ほとんどの市民は石炭火力発電所の建設計画を知りません。説明責任が求められます。   mud-skipper♀