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ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第258号 

2019.1.7 発行    代表:小西 由希子

目   次

  1. 高校で生物の先生をしていました
  2. コラム5 「アカネズミの繁殖中心」
  3. 新浜の話12  「大学入試前後」
  4. (仮称)蘇我火力発電所計画を事業者が断念

高校で生物の先生をしていました

千葉市美浜区    高橋 久美子  

 私は、大学の生物学科を卒業し、すぐに就職して高校教員になりました。約38年間理科を担当し、主に生物を教えてきました。
 文部科学省(以前は文部省)による学習指導要領が10年おきに改定され、小中高と順次新しい課程に替わっていきます。もともと指導要領は、強制力のあるものではなく何を教えたらよいかわからない教員のための指針のようなものだったそうです。それが、いつの間にか教科書検定と相まって国家権力による教育への介入のようなものになってしまっているのは、残念なことです。特に共通一次試験(現在の大学入試センター試験)が始まってひどくなりました。今はまた大学入試改革が進み、2020年度から大学入試共通テストというものに替わるそうです。今の高校2年生から関係します。詳細はまだはっきりしないらしいですが・・・お子さんが小中高の方は、気が気ではないでしょうね。
 話を元に戻しましょう。私は、在職中他の科目を担当したことや物理の先生に物理や数学を教えていただいたこともありました。思えば、なかなか楽しい日々でした。様々な現象に対して疑問に思うこと。簡単に結論を出さないこと。学ぶことは視野を広げ、今まで知らなかった世界を垣間見る喜びに満ちていること。そのようなことを、拙い指導の中で伝えたいと思って仕事をしてきました。私は、ただテストの点数を取るとか受験に合格するとか、そのような目先の目標のために、生物学を教えてきたわけではありません。「やっぱ生物系よね」とつぶやいて、農学科、林学科や生物学科に進路を進めた生徒もいました。別に私の影響ではなかったかもしれませんが。
 今の生物の教科書は、平成25年度から「生物基礎」2単位、「生物」4単位で設定されました。特に4単位の「生物」には、膨大な知識が詰め込まれています。語句とその意味を暗記しなければならず、受験生にとっては大変な負担になっています。それまでの「生物Ⅰ・Ⅱ」で、遺伝の法則(三点交雑法)や世代交代・核相交代等が難しいとの批判があったのでしょう。しかし現在の教科書のように、遺伝子をDNAレベルのみで説明するのは少し無理があるし、植物の進化の理解に重要な世代交代の考え方を全く省いてしまうのはどうかと思います。タンパク質の名称や働きを覚えるより、生命現象をどのように捉えるかが大切だからです。今の教科書ではABO式血液型の遺伝も学習しないのです。

 

 私は、実際の生き物に興味をもってほしいので、実験実習を数多く行い、教室に植物を持って行ったりしました。ヒドラという小さな動物を20年くらい培養していました。捕食行動の観察をさせたり、触手の再生実験を行ったりしました。最後に赴任した学校では、校庭の樹木や草の名前を教え野鳥を観察させました。ヤマサナエ(トンボ)のヤゴの抜け殻を持って行った時のことは、今でも忘れられません。私は、生徒たちがトンボのヤゴの抜け殻を欲しがるだろうと思っていたのですが、多くの生徒は気持ち悪いといって引いてしまいました。ドン引きです。生徒だけでなく生物の先生にも引かれました。驚きでした。私と一般の人々(?)との感覚の隔たりを痛感した瞬間でした。
 子どものときに何に出会うかが、その後の人生を大きく左右すると思います。できればごく自然にヘビやカエル、昆虫等に触れ、人間も多様な生き物の世界の一員であることを認識できるように育ってほしいと思います。そういう意味でも私は、谷津田で過ごす子どもたちの活動を支えていきたいと思います。

コラム5 「アカネズミの繁殖中心」

哺乳類研究者 香取市 濱中 修 

繁殖場所が重要
 鳥の調査では、目撃情報を集めることに、あまり意味はありません。それぞれの種の鳥について、巣造りをして卵を産み、雛を育てている場所がどこであるかをつきとめることが重要です。
 私は、学生時代に、鳥類の生態学的調査の方法について、浦本昌紀さんの講義を聴く機会がありました。わかりやすい講義で、今もよく覚えているのですが、繁殖場所が重要というのも、浦本さんがお話しされたことの1つです。
 浦本さんの講義を聴いたおかげで、私は、野ねずみの研究をするようになってから、彼らがどこで繁殖しているかを注意深く調査するようになりました。

 

アカネズミの繁殖と分散
 アカネズミ以外の野ねずみは、ヒメネズミは自然林、ハタネズミは農地や草原、カヤネズミは萱場というように、住む場所が特定の環境に限られます。それらの種は、住んでいる場所で子どもを産み、育てています。彼らは、生活場所と繁殖場所が一致しています。
 それとは対照的に、アカネズミは、いろいろな自然環境に住んでいます。アカネズミは、生活環境を選ばないようにも見えます。しかし、どの環境でも繁殖に成功して、子孫を増やしているわけではありません。
 動物は、子どもを産んで育てるのに適した場所があると、そこで数を増やします。増えた若い個体が周囲に散らばって、分布を広げていきます。このことを「分散」といいます。
 アカネズミが、いろんな環境に住んでいる理由の1つは、生まれた場所から周囲に分散していく性質が、他の種類の野ねずみより強いからです。アカネズミの分布区域は、繁殖活動がうまくいって、数が増えている区域(繁殖中心;英語では source といいます。)と、そこから分散してきた個体が住む区域(辺縁区域;英語では sink といいます。)とに分けて考えなければなりません。
 
繁殖中心と辺縁区域
 アカネズミは、春から秋が繁殖期です。その間、繁殖中心では、妊娠している雌や乳腺が発達した雌が捕獲されます。幼獣もたくさん捕獲されますが、雌の割合が高くなります。雌は産まれた場所から遠くには分散しないからです。
 冬は、アカネズミの繁殖活動が弱まりますので、繁殖中心になっている場所でも、妊娠雌などは捕獲されなくなります。でも、雌の割合が高いという特徴は維持されます。繁殖中心では、若い雌が母親を含めた成獣雌のテリトリーを受け継いでいきます。
 図1は、私が捕獲したアカネズミについて、その場所の環境別に捕獲頭数を整理したものです。繁殖中心の特徴が現れる場所は、雑木林と河川のまわりのヨシ原や草原です。でも、その全部ではありません。
 雑木林は、薪や炭を生産するために、里山にずっと維持されてきた森林です。クヌギやコナラなどは、短期間で伐採が繰り返されましたから、大木には成長しない森林でした。木々の枝葉の間にすき間があり、森林の中に日光が差しこむ環境でした。林床植物が育ち、食べられる実を結びました。アカネズミにとっては、住みやすい環境です。だから、彼らの繁殖中心になっていました。今も、薪炭林としての利用が続いている雑木林は、アカネズミの繁殖中心になります。
 都市には、保存林として残されている雑木林があります。そこは、クヌギやコナラが大木に育ち、枝葉が重なり合って日光をさえぎり、中が薄暗い森林になっています。アカネズミにとっては、住みにくい環境です。だから、繁殖中心にはなりません。
 千葉県は、利根川を始め、たくさんの河川が流れています。その川原は、洪水を防ぐための遊水地として、広い面積で残されていて、夏にはヨシが生い茂ります。その堤防には、イヌムギなどの草が、夏に実を結びます。夏の川原では、昆虫の数も多くなります。アカネズミは、ヨシや草の被いがあることで、猛禽類などの肉食動物から身を隠すことができます。草の実や昆虫を食べることもできます。河川のまわりにも、アカネズミの繁殖中心になる環境があるのです。
 アカネズミは、雄のほうが分散する性質が強いので、辺縁区域で捕獲される個体は、若い雄が多くなります。スギ人工林でも、アカネズミを捕獲していますが、そこは、アカネズミにとって住みやすい環境ではありません。だから、辺縁区域の特徴が典型的に現れます。
 

 


個体群の年齢構成を読む
 調査地で短期間にアカネズミをたくさん捕獲したことがあります。図2は、そういう調査地の捕獲個体を性別・体重別にグラフ(ヒストグラム)にしたものです。この図では、雌雄とも、体重が30gを超えたものを成獣と見なしています。雌はそれでほぼよいのですが、雄では、まだ性成熟していない若い個体の中に、たまに体重が30gを超えるものがいます。
 A地点は、常磐自動車道利根川橋下(柏市)のヨシ群落です。ここで捕獲した成獣雌8頭のうち、2頭は妊娠雌,5頭は哺乳による子育てをしている雌でした。すなわち、捕獲した成獣雌の約9割が繁殖活動中でした。ここは,アカネズミの繁殖中心でした。
 A地点では、体重30g未満の幼獣も10頭捕獲しました。そのうち,8頭は雌でした。離乳後、雌の子どもは生まれ育った場所の近くに留まり、雄の子どもは遠くに旅立っていくからです。
 B地点は、成田市上福田の雑木林です。捕獲したアカネズミは、全部で36頭でした。雄が23頭、雌が13頭で、明らかに雄の割合が高い。しかも、雄のうち20頭は幼獣でした。
 アカネズミがたくさんいても、B地点は辺縁区域です。近くに繁殖中心があって、そこから分散してきた個体がほとんどなのです。
C地点は、南房総市白浜町白浜名倉堰奥の雑木林です。捕獲個体のほとんどが幼獣で、人口ピラミッドでいうと、多産多死型の形になっています。アカネズミの子どもがたくさん産まれているのですが、アカネズミを食べる肉食動物がたくさんいて、食べられてしまう個体も多いのです。
雌雄は1:1の割合です。この森林の中でアカネズミの移動が完結していて、外に分散する個体は少ないと考えてよいと思います。

新浜の話12 「大学入試前後」

千葉県野鳥の会 市川市 蓮尾 純子 

 高校3年の夏休みから、私と裕子さんは新浜への出入り禁止を言い渡されました。ふたりとも大学入試を控えていたためです。冬休み、たしか1月2日だったのではないかな。久々にふたりで新浜に行きました。5か月ぶりの新浜は、夏休み前とはずいぶん様子が変わっていました。縦横に砂利道が作られ、水田は休耕地になって、丈高い草が生い茂っています。なかでもいちばん驚いたのは、いつも鳥にも人にも拠り所となっていた丸浜養魚場(現在は江戸川左岸広域下水処理場と福栄4丁目の住宅地)の一角に高圧鉄塔が立てられて、1羽のカモも見られなかったこと。
 私はよくよく鈍いタチなのだと思います。毎週のように通っていて、ぐんぐん進んで行く埋立工事の様子は目のあたりにしていました。それどころか、カウントグループが調査していた場所というのは、ほとんどが埋立地、そうでなければ、耕作が放棄された休耕田や、地盤沈下で田んぼだった場所が沼沢地になっているような、急激に変化して行く環境だったのです。昔ながらの干潟や、耕作が続けられている水田や畑もまだ残っていました。江戸川放水路のあたりはさいごまで昔の環境が見られていたところです。
 それでも、海に近いあたり(現在では塩焼・日の出)では地盤が沈下して稲が作れなくなり、やむなく蓮田に切り替えたものの、更に沈下して水に塩分が入るようになり、耕作を放棄したと伺いました。あぜ道を歩いて行くと、いつの間にか道が水中に没しているところも何ヶ所もありました。

 

 浦安、たぶん今の堀江のあたり。耕作が放棄されてアシ原になっていた場所の通路で見つけたカルガモの巣。1個だった卵が翌週には卵が8つに増えたとのこと。次の週にはそろそろ暖めはじめるのかと思っていて、その週の担当の人に聞くと「ないよ」という返事。「卵、とられちゃったんですか」「いや、あぜ道そのものがないの。埋められてしまった」
 そんな経験をしていながら、新浜がほんとうになくなるという実感を持ったのは、まさにこの日でした。心のどこかで、これだけ大切な場所が、誰も何も知らず、何の働きかけも歯止めもないままに、埋め立てられてしまうわけがない、という甘えがあったのでしょうね。この時はじめて、自分たちがこれほど愛しており、鳥たちにとってかけがえのない新浜という場所が、消滅してしまうことを実感したのです。
 3月下旬、入試のさいごだった国立二期校の東京農工大の試験を終えたあと、ふたりで大学の正面玄関のところで「新浜のこと、どうしよう」と相談したことを覚えています。裕子さんのほうが実際的で、現実が見えていたのだと思います。行動に移すことをためらったのも、具体策を出したのも、彼女でしたから。
 ともかくいろいろな鳥の専門家の方々にお会いして、お話を聞こうということになりました。何人目かにお邪魔した林業試験所鳥獣実験室(当時、聖蹟桜ヶ丘にあったはず)の松山資郎先生。後に「野鳥と共に八〇年」(文一総合出版)という著書をまとめておられます。
 ものやわらかで腰が低くて、鳥の世界では押しも押されぬ重鎮でおられたのに、気振りにもえらそうにされたことはありません。松山先生 は「そういうことだったら、この人に会ってごらんなさいよ。そうそう、この人にも」と、その場で次から次へと電話をかけてくださいました。あれよあれよという間に、裕子さんと私は鳥の世界で指導的な立場におられ、これまでお会いしたこともなかった方々のところを次々に訪ねてまわることになっていました。

(仮称)蘇我火力発電所計画を事業者が断念

蘇我石炭火力発電所計画を考える会 小西由希子 

 昨年12月27日千葉パワー(株)が蘇我火力発電所の中止を発表しました。今後も天然ガスでの発電は検討していくとのことで予断を許さない状況ですが、まずは一安心。学習会への参加や署名活動等にご協力くださった皆様、ほんとうにありがとうございました。十分な事業性が見込めないことが断念の理由とのことですが、市民の声が事業者を動かす一定の力になったことと確信しています。
 国内の新設計画は34基、東京湾岸でも横須賀市(65万kW2基)と袖ケ浦市(100万kW2基)で進行中ですが、事業リスクの高い石炭火力からの賢明な撤退を強く求めます。また、大震災以降節電や省エネが進み電力需要も減っていると聞いています。これ以上の発電所建設が必要なのかも検証していく必要があるでしょう。
 さらにJFEスチールによる粉じん(降下ばいじん)被害は未だ深刻です。汚染の低減に向け事業者や行政に働きかけていきたいと考えています。引き続き活動へのご理解と協力をよろしくお願い致します。


【発送お手伝いのお願い】

 ニュースレター2019年2月号(第259号)の発送を2月6日(水)10時から事務所にておこないます。 発送のお手伝いをしてくださる方を募集しています。よろしくお願い致します。

編 集 後 記

 暮れも押し詰まった27日、蘇我地区石炭火力発電所中止の知らせを受け、当然の結果と受け止めながらも安堵しました。企業がお金儲けのためなら何でもやっていいという時代ではないはずですが、環境汚染を危惧しながらも事業者に遠慮して声をあげられない状況は、残念ながら一昔前と変わっていないことを、活動を通じて実感しました。   mud-skipper♀