目次 |
日本地質学会環境地質研究委員会 野田市役所 高嶋 恒太
ある日、県の職員がやってきて、土地所有者であるあなたにこう告げます。「すぐ隣の工場跡地で汚染の存在が判明しましたが、地主の負担によりモニタリング井戸が作られましたので、汚染が地下水に達し、地下水の汚染濃度が基準値を上回るまでそのまま監視することになりました。」と。その後、自宅を売って資金づくりをしようとすると、土地取引業者からこう説明を受けるかも知れません。「隣の工場跡地が県の台帳に汚染地登録されているので、お宅の土地は買い手がつきませんよ。汚染がでてきたら、それこそ土地より高くつきますからね。」と。
学校教育から地学という学問が消えて久しくなります。そして地面の下の環境は、一般の人の目に留まることなく、放置されてきました。廃棄物は埋めれば土になると信じられ、未だにその施策を受け継いでいます。昭和50年代の公害紛争後も有害物質は使用され続けて来ました。大気や水環境に放出されなくなった有害物質はどこへ行ったか?それは地面の下に添加され続けてきたのです。
理科の授業で元素とはそれ以上分解できないものとして習った記憶があると思います。水銀やカドミウム、砒素などはすべて元素であり、如何に分解してもそれ以上分解しません。つまり永遠に残存し、環境を循環するのです。こうした物質は、鉱山の地下深くから採掘され、製品となり、そして地表に廃棄されてきたわけです。では、こうした物質は表層でどの場所にどのように存在するのでしょうか?これにはその土地の地質に大きく関係するのです。
大気や水環境に添加された物質は非常に早い速度で拡散され、そして移動していきます。川の上流に汚染源があれば、川の下流に流れてきますし、どの部分をとっても汚染物質を捕まえることが出来ます。一方、工場敷地の一部に穴を掘ってそこに有害物質を捨てていたらどうでしょう?穴の深さは1.5m、大きさは3.0m程度であったとします。後にその穴は埋め立てられ地表から全く観察出来なくなりました。工場が立ち退き、一面ススキの原です(図-1)。重金属などは移動しないから、放置しておいても問題はないでしょうか?しかしながら、六価クロムや砒素など容易に地下水に溶け出す物質が含まれるかも知れません。
こうした場所が日本には無数に存在します。そうした汚染から人の健康を守るため、土壌汚染対策法という法律が第154国会において成立し、平成14年5月に公布されました。市街地の地質(土壌)汚染問題に対応するため、土地所有者に汚染の責任を持たせるという法律です。今まで責任の所在がはっきりされなかったために放置されてきた状況に比べ、一定の進展はあると考えられています。問題は、汚染機構の科学的解明と汚染原因者の特定を行う取り決めがきちんと行われなかったことです。
図ー1.地質(土壌)汚染概念図 |
平成14年9月18日に、環境大臣の諮問を受けた中央環境審議会の土壌農薬部会において、「土壌汚染対策法に係る技術的事項について」のとりまとめが行われ、大臣に対して答申が行われました。この中で汚染調査の方法が次のようにされました。
「重金属等直接摂取によるリスクのある物質は、100uに1点で深さ50cmまでの土壌を等間隔に5試料を採取して混合し、分析するものとする」100uとは10m×10mです。土地をこの区画に区分してサンプリングし、分析して汚染が検出されなければ「シロ」、検出されれば「クロ」です。はたして3m程度の穴の跡をこれで発見できるのでしょうか?はたまた等間隔サンプリングで汚染物質は捕まえられるのでしょうか?答えは「ノー」です。ではなぜそれを見逃してしまうのでしょう。実は、地面の下の出来事を全く理解していないからです。
メッシュ調査や等間隔サンプリングは、均質に拡散する汚染物質にこそ適応可能ですが、先に示したとおり重金属汚染も地層そのものも混合されないため、非常に不均質な状態で存在します。しかし、逆に混ざらない性質があるため、汚染が添加された状態がそのまま保存されるわけです。すなわち汚染の添加された地層は、後に埋め立てられた地層の下位に必ず存在することになります。これを地質学では「地層るいじゅう累重の法則」と言っています。先に示した例では、穴の下側に汚染を含むヘドロが堆積し、上側に埋め立て層が存在します。穴のまわりは自然のままの地層が存在しているでしょう。地質学を修めた人なら、容易に自然の地層、汚染されたヘドロ、そして埋め立てた地層を区分することが出来ます。こうした観察を行うことによって汚染機構を明らかにし、そして対策も可能となります。しかしながら、こうした観察を行わないとどうなるでしょう?
同じく中央環境審議会の答申を紐解きますと、次のように示されています。「汚染措置命令の発出方法については、立入禁止、舗装、覆土(盛土)指定区域内外土壌入れ替え、封じ込め及び浄化のいずれかを選択し、1つを特定して命ずることとする。原則としては、覆土(盛土)を命ずることにする。」覆土とは読んで字のごとく、土で覆うということです。つまり土をかぶせてほっておこうというのが法律の趣旨です(図-2)。では地下水に溶け出す可能性のある物質ではどうなるでしょう。実は、「封じ込め」を行えと書かれています。「封じ込め」とは、産業廃棄物処分場と同等、あるいはもっと簡易な構造物(遮水壁を地層中に打ち込み、覆いをするだけ)で囲うことです。これはまた街の中に廃棄物処分場をつくれという風にも読めるのです(図-3)。しかも、汚染機構がわかっていないために、埋立てに使われた土も自然の地層も、100u区画の中の地層すべてを対策してしまいます。場合によっては汚染物質をさらに地下深くに落とし込んだり、汚染された地層を切断して、未対策部分を残してしまったりする可能性があります。本当にこれでいいのでしょうか?
ここから読みとれます様に、実は答申では汚染機構を解明する調査は行う必要がないと考えています。調査がないので、当然汚染原因者は特定されません。すべては土地所有者が責任を持つわけです。しかも、土地所有者が望めば、覆土による放置も廃棄物処分場まがいの対策も可能としています。さらには、最初のメッシュ調査で汚染を見落とせば、マンション開発などにより、汚染物質を含む地層はそのまま残土として流通して行きますが、土壌汚染対策法は「汚染対策法」ですから、流通する残土に規制は行っておりません。
図ー2.覆土(盛土)措置のイメージ図(環境庁HPより引用) | 図−3.封じ込め措置のイメージ図(環境庁HPより引用) |
日本地質学会環境地質研究委員会では土壌汚染対策法が策定される以前から、地質汚染保全法の必要性を訴えてきました。また、前述の様に非常に問題の多い法制化に対し、技術的に未熟な方法は危険であり、かえって汚染を拡大することになりかねないと警告し、地質汚染は機構解明が必要不可欠であると提言を行ってきました。こうした意見は企業など民間の多くに受け入れられましたが、残念ながら国には受け入れられませんでした。
土地は様々な企業活動や生命活動を支える原資でもあります。工場を持っている企業や土地を売り買いする企業、土地鑑定士や銀行などは、こうした「不良債権」を引き当てないために、近年様々な勉強会を行っています。おそらく、民間での売買においては、環境省の示した技術的事項以上に厳しく査定を行って汚染の有無を確認することでしょう。また、土地鑑定士の行う査定にも汚染事項が検証されることは確実視されています。さらには、環境ISOの14015には、汚染された土地のリスク低減のため、サイトアセスメント手法が導入されることになりました。企業活動においては、すでに汚染のリスクは土地の価格に含まれるようになってきています。そして、あなたの持っている土地も、知らないうちに資産価値が無くなっている可能性があるのです。このように土壌汚染対策法は財産面においても大きな影響を社会に与えることが予測されています。
国民の健康と財産を守るのは国の責務ですが、現状では多くの問題が残されました。今後、廃棄物のあり方そのものや、土地の利用法について、深く考えていく必要があります。皆さんも、足下の環境問題をもう一度見直してみませんか?
米づくり2年目の今年も3畝(300平方m)の田んぼから約150kgのコシヒカリを収穫することができました。これも米づくりに参加して下さった皆さんと下大和田の自然のおかげです。そんな労をねぎらい、田んぼの恵みに感謝して収穫祭を開きます。谷津田米を食べたり,むしろ作り、竹の工作、縄ないなどに挑戦したりと、イベント盛りだくさんです。
日 時:2002年10月13日(日) 10:00〜14:00 ※小雨決行 場 所:千葉市緑区下大和田谷津田「谷津田わいわい広場」 集 合:中野操車場バス停10:00(JR千葉駅I番バス停 中野操車場または成東行き ちばフラワーバスで45分,520円) 持ち物:弁当,飲み物,敷物,おはし,おわんなど 一芸披露を歓迎します! 参加費:大人500円、子ども300円(材料代+保険代) 連絡先:ちば環境情報センター TEL&FAX:043-223-7807 主 催:ちば環境情報センター e-mail:kuni@eastcom.ne.jp(高山邦明) 共 催:ちば・谷津田フォーラム |
第8回「あびこ子どもまつり」 子供が本来持っている「子供の力」を思う存分発揮できる場,CEICも草木染めなどで協力. 日 時:2002年10月26日(土) 9:30〜15:00 会 場:我孫子市生涯学習センター「アビスタ」 主 催:あびこ子どもまつり 協 力:ちば環境情報センター 連絡先:04-7149-5148(前野) |
|
浜辺のごみひろいとバーベキュー 日 時:2002年11月2日(土) 9:00〜 場 所:稲毛の浜 集 合:稲毛の浜9:00 持ち物:軍手,飲物,食材 主 催:くらしのグループ 連絡先:043-223-7807ちば環境情報センター |
ソーラー会 第4回勉強・意見情報交換会 「太陽光発電の導入を検討するに当たって考慮すべきことは」 日 時:2002年10月25日(金) 11:00〜13:30 会 場:ちば環境情報センター事務所2階 持ち物:弁当,水筒 参加費:無料,申し込みは不要 主 催:ソーラー会 連絡先:03-5563-0259(石黒) |
編集後記:10月1日、今年3つ目の台風が上陸しました。関東地方が台風銀座と呼ばれているようですが、なんでもエルニーニョの影響で発生場所が東に偏り、九州でなくこちらに向かってくるそうです。台風被害はご免ですが、恵みの雨には感謝したいです。mud-skipper