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ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第229号 

2016.8.10 発行    代表:小西 由希子

目   次

  1. 海岸砂丘における生態系サービス その1「自然の恩恵を受けた酒造り」
  2. 「川あそびにいったよ」
  3. 千葉県にすむ哺乳類18  ジネズミ
  4.  サンブスギ丸ごと体験記

海岸砂丘における生態系サービス
その1「自然の恩恵を受けた酒造り」

北総生き物研究会    金子 是久 

1.はじめに
 海岸砂丘は、海と陸との間の緩衝帯であり、その地下10m前後に淡水層が存在している(図1)。この淡水層は、農業用水・飲料水などの生活用水、酒蔵の仕込み水等に利用され、生態系サービス(人々が自然から受けている恵み)としての役割を果たしている(金子ら2012,Kaneko et al 2013)。調査地の千葉県は、三方を海に囲まれ、海岸砂丘が帯状に広範囲に分布し、大正時代には多くの酒蔵が記録され(鈴木1997)、当時は、自然の海岸砂丘が形成され、自然の恩恵を受けた酒造りが行われていたと推察される。特に、東京湾側では、幕張町(現:千葉市花見川区)、検見川町(現:千葉市稲毛区)、椎名村(千葉市緑区)、五井町(現:市原市)、金田村・巖根村・木更津町(現:木更津市)、船形町・那古町・北条町・館山町(現:館山市)において酒蔵が記録されていたが(図2)、現在、これらの地域に存在していた酒蔵は、酒造業を営んでいない。

 

 本報告では、千葉県の海岸付近(東京湾側)において大正時代に存在していた酒蔵およびその周辺の環境(地形・土壌・土地利用・地下水深度とその水質)を調べることで、自然の恩恵を受けた酒造りが行われていたかについて検証した。

 


2.調査方法
千葉県内の酒蔵の記録については、ちばの酒物語(1997)から引用した。酒蔵の立地環境(土壌・地下水位・水質)については、表層地質図・地形分類図・土壌図(万分の1都道府県土地分類基本調査(千葉))、千葉県地下水水質資料集(千葉県衛生研究所 1983)から引用した。また、大正時代に酒蔵を営んでいた家の末裔の方に、廃業理由、酒蔵運営時の自然環境について聞き取り調査を行った。

 


3.結果および考察
 調査地の酒蔵およびその周辺の立地環境については、地形は、砂洲、砂堆・自然堤防であり、表層地質は、砂がち堆積物、砂地であった。また、多くの酒蔵は、標高10m以下、海からの距離1.0km以内であり、井戸水の深度は3-10m、水質は中硬水~強硬水であった。硬水は、豊富なミネラル分(Ca,Mg等)を含み、それを仕込み水として酒を造ると、麹、酵母が豊富なミネラル分を吸収して、糖化、醗酵が活発になり、コクのある辛口の味わいになることから、この地域の酒は、そのような味わいであったと推察される。

 

 今回は、調査地の中で過去と現在の環境が最も激変した幕張町を紹介する。大正時代の幕張町の中心は、海の近くであったが、高度経済成長期以降、工業化の進行に伴う大規模な埋め立て開発により環境が激変した(図3)。幕張町の酒蔵は、昭和4年の鳥瞰図に描かれ、江戸時代の書物である下総名勝図絵には、「馬加の浜辺に湧き出ずる井戸水を馬加の弘法水という」と、豊富な湧水が湧き出ていたと記されていることから、海岸砂丘の淡水層、そこから湧き出る湧水を利用した酒造りを行っていたと推察される(図4)。次回に続く。

引用文献
1) 金子是久・押田佳子・松島肇(2012) 海岸砂浜がもたらす生態系サービス-供給・調整・文化的サービスとしての重要性-. 景観生態学17(1):19-24.
2) Kaneko k, Oshida k, Matsushima H (2013) Ecosystem services of coastal sand dunes saw from the aspect of Sake breweries in Chiba Prefecture, Japan: a comparison of coastal and inland areas. Open Journal of Ecology 3(1), 48-52.
3) 鈴木久仁直著(1997)ちばの酒物語~酒づくり・心と風土の歴史~. 千葉県酒造組合.
4) 千葉県衛生研究所(1983)千葉県地下水水質資料集.千葉県.
5) 松井天山 (1929) 千葉県市街鳥瞰図.千葉県.

「川あそびにいったよ」

山武市 小学2年生 中村 涼音 

 7月の海の日に千ばしのみやこ川にかぞく5人で川あそびにいきました。
いく前は、まい年いっているから、足もとがドロドロ※とか、木のえだやはっぱがながれて来るのがわかっていていやでした。でもいってみたらたのしかったです。川の水がつめたくてきもちよかったです。
さかなもいました。お母さんととってみたらたくさんとれました。自分でも何回もチャレンジしたけどとれませんでした。
5さいの妹はきょ年まで入れなかったけど、こ年はいっしょに入ってさかなをとることができました。2さいの弟は川の水をこわがって、ずっとお父さんにだっこしてもらっていました。
みんなで力をあわせてつってきたさかなは14ひきくらいいました。まいにちえさをあげています。来年は自分でさかなをつりたいです。 ※(編集者注)実際の川底は砂です。


〈母後記〉中村 真紀 

 へっぴりちゃんだった娘達もお陰さまで川遊びを十分に楽しめたようです。
 去年まで水に触ることすら出来なかった次女が自分の足で川の中を歩き、真剣に魚を捕まえようとしている姿、行きの車の中では嫌々だった長女の瞳が川の中で生き生きとしていたこと、メダカとカダヤシの区別もイマイチ覚えられない私(すみません…)も初めて魚が取れたこと、どれもとても嬉しかったです!
 思えば私が初めて都川の川遊びに参加したのは今から15年くらい前、独身時代でした。今年で21年目というこの川遊び。一体どれだけ多くの子ども達の夏の思い出になっているでしょうか?
 あの頃から変わらずに草刈りから安全管理まで準備してくださっているスタッフの皆さん、新しくメンバーに加わってくださった方々、今年も一緒に川に入ってくれたお友達と我が家族、そして都川で暮らしているお魚さんやお米農家さん、皆さんに感謝申し上げます。これからもこの自然や平和がず?っと続いていきますように。

千葉県にすむ哺乳類18  ジネズミ

哺乳類研究者 香取市 濱中 修 

ネズミではない
ジネズミは、ネズミのなかまではありません。私の絵をよく見てください。ジネズミは、モグラに近い顔つきをしています。ジネズミは、モグラと同じ食虫類です。でも、地下にトンネルを掘るわけではなく、地上で活動します。

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床下のこびと
 『床下のこびとたち』は、イギリスのノートンが書いた童話ですが、ジネズミは、まさにこの作品の床下のこびとのような生活をしています。
 家に棲みつく本物のネズミは、天井で運動会をしたり、台所を荒らしまわったり、人家の中で傍若無人に振る舞います。でも、ジネズミは,そんなことをしません。住人に気づかれないように、ひっそりと暮らしています。
 よい木材で作られた家は、百年の時を経ても、人間が住み続けることができます。そういう家には、ジネズミもそっと棲み続けています。

キャラバン行動
 私のところに、「ネズミが、物置きから飛び出してきて、つながって逃げていった」という問い合わせが、時々あります。私は、「あなたが見たのは、ネズミではなく、ジネズミです」というお話から始めることになります。

 
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 ジネズミは、人家の隅っこに隠れ家をつくって、そこで子どもを育てます。子育ての最中に、人間に見つかってしまったら、子どもを連れて逃げるしかありません。母親のしっぽを子どもが口にくわえ、その子ども
 のしっぽを別の子どもが口にくわえて、親子がつながって、一目散に逃げます。これをキャラバン行動といいます。
 伊勢神宮の神官をしている矢野憲一さんから「古い戸の金具に、ネズミがつながっているような浮き彫りの細工をしたものがある」というお話を聞いたことがあります。キャラバン行動は、日本では昔からよく知られていたことなのです。それでも、初めて見たひとは、びっくりして腰を抜かすことになります。
 本物のネズミは、キャラバン行動をしません。

棲める家の減少
 我が家の床下にも、建てかえる前には、ジネズミが棲んでいましたが、今は棲んでいません。建てかえるときに、「ベタ基礎」にしたからです。そういう家が増えて、ジネズミの棲める家が減りました。

食虫類のすみわけ
 千葉県には、アズマモグラ、ヒミズ、ジネズミという3種類の食虫類がいますが、それぞれ棲む環境が違います。

 
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 アズマモグラは、人家の庭から森林まで、いろいろな環境に、地中に深いトンネルを掘って、棲んでいます。ヒミズは、地面が落葉落枝に被われた森林に、浅いトンネルを掘って、棲んでいます。ジネズミは、田園風景が残る人里の人家とそのまわりに棲んでいます。


  

 サンブスギ丸ごと体験記

千葉市花見川区 岡村 淳輔   

 千葉県内の小中学校が既に夏休みに入ったある日、山武市内にあるサンブスギ森林の実地見分、次にサンブスギの家を見学し、そこで昼食をとり、午後から製材工場を見学した。
 参加者20人ほどで山武市役所から観光バスで日向に位置する森林に入る。眼前にはすくっと伸びた杉林がある。林と言うと傾斜地に木々が育っていると連想するがこのサンブスギは北総の平らな台地に挿し木で育てられている。したがって木々はまっ直ぐ、その間隔はほど良く調整され整然としている。ここで県農林総合研究センターの福島所長からサンブスギの歴史と現状、その魅力について30分余の話があった。250年以上の歴史があり、始めは松と杉の二段林施行だった。冬の間の凍害防止のためだが今は松食い虫予防で用いてない。サンブスギにはいろいろな長所があげられるが、すくっと伸びて太さの変化が極めて少ないこと、小枝は小さく隣りの杉との干渉がないこと、雄花が少なく杉花粉の懸念がない。スギが大気中の炭酸ガスを光合成により主成分の炭素として取り入れ酸素を排出する。自然の力を利用した環境保全に大いに寄与している、などなど興味つきない話があった。とは言え長所ばかりではなく、幹が腐るスギ非枯性溝腐病にかかりやすい。太いスギの幹にポッカリ大きな溝が出来る。
 話が終わり活発な質疑応答があって、その後実際に間伐の実演があった。直径約30cm長さ30mくらいのサンブスギはチエーンソーで瞬く間に切断されカメラに収める間もなかった。木が地に倒れるや僅かに地の揺れを感じ、一同思わず喚声をあげる。
 次に実際にサンブスギを使用した家を見物させていただいた。外壁は防火上から金属板を使用しているが内部は総サンブスギである。家の中央には直径約45cmもあるサンブスギの大黒柱が二階の天井まで貫いている。柱は近くの製材所で丸太を手仕上げできれいに表面加工したとのこと。大変な手作業である。この大黒柱に横から高さ30 cmの床柱が交差し貫いている。これらの柱や板材との組立てには一切鉄釘は用いず木のピンを打ち込んだ組み立て構造である。室内はサンブスギの大変良い香りに包まれアロマセラピーの思いである。外部からの騒音とか外気温の遮断にも効果があって大変癒された気分になる。
 ちなみに建築のコスト問うたところ普通の建物と同じくらいの坪単価とのことである。
 最後に近くの製材所で丸太から角材を切出す実演を見る。大きな帯のこがいとも簡単に丸太を切っていく。簡単に見えるが丸太のどの部位、角度から角材として切出すかにベテランの判断が重要になる。
 以上ここでは官民一体になって地元の木材料を使い、よって地産地消を促し、地域の雇用、活性化を目論んでいる。また木材の使用により少しでも地球温暖化を阻止し、次の世代に資源を継いでいくこと。わが国が有する伝統的な木造建築の技術をこれからも継承していかねばという思いである。

   

【発送お手伝いのお願い】

 ニュースレター2016年9月号(第230号)の発送を9月7日(水)10時から事務所にておこないます。
 発送のお手伝いをしてくださる方を募集しています。よろしくお願い致します。


 編集後記 : 猛暑の季節になりました。 この時期、うるさいくらいなのがアブラゼミですが、今年はいっこうに聞かれません。ヒグラシ、ニイニイゼミ、ミンミンゼミと例年どおりなのですが、どうしたのでしょうか。真夏の到来を実感させられる声がないのはちょっと淋しいですね。 mud-skipper